ななつの嵐山WEB MAGAZINE

コラム2020.01.14

名優が築いた庭園で、その“言葉”を聞く

景勝地・嵐山の素晴らしさを存分に感じられるスポットが、大河内山荘庭園です。完成まで30年もの時間を費やしたという庭園を巡り、嵐山を愛した銀幕のスター・大河内傳次郎(おおこうちでんじろう)の思いを感じてみませんか?

 

傅次郎がこの庭園を作り始めたのは、すでにスターの座に上り詰めていた傅次郎が34歳の頃。生涯を終えるまで、30年に渡ってコツコツと作り上げたのだそうです。小倉山の南面約6000坪の敷地には、母屋や仏堂、茶室などが配され、風情ある苑路がそれらを結んでいます。

 

その入り口は観光客で賑わう竹林の小径の最奥に。受付を済ませゆるやかな坂道を上がると、やがて侘びた風情の中門が見えてきます。先へ進むと目に入るのが、母屋である大乗閣。この建物は傅次郎の意向が反映されたもので、数寄屋造や寝殿造など和の建築様式を取り込まれもので、優美な佇まいが印象的です。

母屋の近くまで進み、歩いてきた方向を振り返れば、おだやかな山容を借景にしたスケールの大きな眺めが。嵐山を巧みに取り込んだ景観が見事です。

さて、起伏に富んだ園内に造られた苑路は、左右に木々が迫り、足元に大きな石が配されたところもあって迷路のようにも感じられます。手つかずの自然の中を歩いている気分になるのも、緻密な演出なのでしょう。

それゆえ、視界が開けた瞬間の印象も実に鮮烈です。大乗閣の次に対面する建物となる持仏堂は、この庭園を造るにあたって傅次郎が最初に着手した建物。忙しい撮影の合間にここで瞑想し、静寂を得たと言われます。お堂の前に広がる枯山水の庭園には松も植えられ、静かな祈りの空間となっています。

さらに順路を進むと、景色は一変。緑あざやかな苔の庭にリズミカルに配された飛び石が、その先に建つ茶室「滴水庵」へと誘います。

魔法のような傅次郎の演出はまだまだ続きます。「滴水庵」からさらに上がると、嵐峡展望台が。深く刻まれた保津峡はまるで山水画の世界のようです。

そしてこの庭のクライマックスとなるのが展望台「月香」でしょう。遠くは比叡山、大文字山や京都タワーまで一望できる爽快感。夜なら東山から上る月がさぞや美しいことでしょう。傅次郎もここから月を愛でたのでしょうか。

後は順路を下がっていくだけですが、その足元も実に楽しいのです。小石や瓦を敷き詰めた苑路の美しさにも、傅次郎の美へのこだわりが伺えます。

庭園を一巡すると、なんともいえない充足感に満たされます。「静と動」、「明と暗」のようなメリハリも、他の「回遊式庭園」には見られない傅次郎ならではの演出なのではないでしょうか。

 

庭園への思いや嵐山への思いを直接聞くことはできませんが、この苑内にあるものの全てから、傅次郎の“言葉”が感じられるように思えます。時代を代表する映画スターの類まれなる感性と嵐山の自然が見事に融合した大河内山荘庭園。じっくり鑑賞してみてはいかがでしょうか?

 

(取材協力: 大河内山荘庭園)