ななつの嵐山WEB MAGAZINE

インタビュー2020.02.11

嵐山で知るヨーロッパのオルゴール文化

“音楽はスマホの中”が当たり前の時代、あたたかなオルゴールの音色に包まれてみませんか?

アンティークのオルゴールや西洋の自動からくり人形・オートマタなどを収蔵・展示する京都嵐山オルゴール博物館。スタッフによるオルゴールの実演や解説を聞きながら、19 世紀のヨーロッパで花開いたオルゴール文化に触れることができます。「デジタルの時代だからこそ、アナログなものからいろいろなことが学べると思うんです」――そう話してくれたのは、来館者にオルゴールの実演・解説を行うスタッフの佐野 功さんです。

スイスの時計職人の技が生んだ小さな世界

オルゴールの起源はヨーロッパの教会の鐘。最初は人がハンマーで鐘を鳴らして時間を 知らせていましたが、やがてピンを打ち付けた木の円筒を回転させ、その動きにハンマーが連動して鐘を鳴らす「カリヨン」という装置が登場。この仕組みが後のオルゴールへと繋がります。こちらの博物館には、世界最古という貴重なオルゴールが展示されています。

“1796年にスイスで作られた世界最古のオルゴール”

これはオルゴールの装置が組み込まれた金製の印章。直径わずか 3 センチという空間に シリンダーとスチール製の櫛歯が収められ、音楽の自動演奏が可能になっているのです。

限られたスペースに音楽を奏でる部品を埋め込む技術は、スイスの時計職人ならではのもの。懐中時計や香水瓶、貴族の女性が気付け薬を入れたヴィネグレットなどの小物の中にオルゴールを収めたものも見ることができます。愛用の小物に美しい音色を閉じ込めていたなんて、とても贅沢ですね。

上流階級から庶民まで楽しんだ“自動演奏”

やがて、オルゴールは、音楽を再生、鑑賞する役割を持つようになり、2 つのタイプのオルゴールが誕生します。そのひとつが上流階級の人々に広まったシリンダーオルゴールです。

シリンダーには小さなピンが埋め込まれています。このピンで櫛歯を弾くことで音がで る仕組み。音の数だけ必要となるピンをシリンダーに埋め込むのは職人の手作業です。1 本のシリンダーに何曲も収められているので、ピンの位置が横にずれれば他の曲に影響し、前後でずれればリズムに狂いが。その細かい作業を想像すると、気が遠くなりそうです。

「外側の装飾にも注目してください」と佐野さん。細く削った木を埋め込んだ象嵌細工や螺鈿も見事です。

やがて庶民も楽しめるよう量産化を目指して登場したのがディスクオルゴール。大きな ディスクの裏側にある突起でスターホイールという部品を回転させて櫛歯を弾いて音を出します。ジュークボックスのように使われることもあり、レストランでは客がビール一杯ほどの値段で好きな曲をリクエストし、楽しむこともあったそう。

貴重なアンティークオルゴールを鑑賞できる機会はなかなかありません。目の前で奏で られるオルゴールは、キラキラ輝くような高音とふくらみのある低音が重なり合い、耳に心地よく届きます。音が出る仕組みを解説してもらった後に鑑賞すると、流れるようなメロデ ィもより美しく感じられます。

さらに印象深いのが、演奏の前にギィ、ギィと巻き上げるぜんまい。オルゴールは手動の音楽再生装置。電力の要らない“エコ”な機械なのです。シリンダーや櫛歯などが故障しない限り半永久的に演奏が可能。またバイオリンなどと同様に、年月を重ねるほど響きも深みを増していくのだそう。長い時間をかけて受け継がれてきたオルゴールには、京都の伝統工芸やそれに携わる職人技と重なる部分もありそうです。

西洋のからくり人形であるオートマタのコーナーも必見。取材時の 1 月には、こっそり ジャムを舐めようとする少年や、エキゾチックな表情や豊かな肉付きに目を奪われるヘビ使いの女性のからくり人形が展示されていました。精巧なからくりやユーモアに富んだテーマなど見どころ満載のオートマタは、3 カ月ごとに展示が入れ替わるそうです。

「自動演奏の主流が蓄音機になり、ラジオが普及したこともあって、オルゴールの文化は1900 年前半に衰退していきました。日本ではあまり馴染みのない文化でもあるので、ここで私たちキュレーターが、来られた方とオルゴールをつなぐ役割をしたいですね」と佐野さん。時間に余裕があれば、もう一度解説を聞きながらぐるりと鑑賞するのも良さそう。オルゴールへの理解がより深められそうです。

毎日目にする景色が自分の感性を育ててくれる

ここで25年解説をしているという佐野さんに、嵐山の魅力についても尋ねてみました。

「嵐山は、それぞれの季節ごとにそれぞれの良さがありますね。冬なら雪に覆われたモノクロの世界が美しいです。山沿いに低く垂れこめた雲がまるで龍のように見えることもありますね。それから、桜の季節のあと。新緑の美しさも格別です」

通勤で毎日渡月橋を渡っているという佐野さん。時代の流れとともに変化する部分もありながら、昔からの美しさも残す嵐山の風景を日々目にすることで「自分自身の感性を育ててもらっているという感覚もありますね」と話します。

 

さて、アンティークオルゴールをたっぷり鑑賞したあとは、1Fのショップにも足を運んでみましょう。世界最高峰のオルゴールメーカーであるスイス・リュージュ社製の名品を間近に見る事ができます。またJ-POPのヒット曲やジブリ映画のテーマ曲など、おなじみの曲を楽しめるオルゴールも充実しています。

音楽を楽しむだけでなく、調度品として飾る楽しみもあるオルゴール。旅の思い出や、大切な人へギフトとしていかがですか?

 

(取材協力:京都嵐山オルゴール博物館)