ななつの嵐山WEB MAGAZINE

コラム2019.02.05

鳥居本の静寂に化野(あだしの)の記憶をたどる

嵐山の中心街から北西へ進むと、ふいに美しい街並みが開けます。ここ、嵯峨鳥居本は愛宕神社の門前町として発展し、1979年に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。鳥居本という土地の名称も、愛宕神社の一の鳥居に由来するといわれています。

生から死へ、そして生への想いを伝える場所

鳥居本は化野念仏寺から瓦屋根の古民家が並ぶ「下地区」と、茅葺屋根が続く「上地区」に分かれ、嵐山のにぎやかさとは一線を画す静寂に包まれています。

化野は「あだしの」と読みます。「あだし」には「はかない・むなしい」の意味があり、「化」の字には「生→死→生」へと化けることを願う意味があるようです。かつて化野は鳥辺野・蓮台野と並ぶ京都の三大葬送地で、当初は「土葬」ではなく「風葬」と呼ばれる、いわば野ざらしで葬られていたそうです。

化野念仏寺は、平安時代の初期に空海がこの地にお堂を建て、野ざらしになっていた遺骸を埋葬したのが始まりと言われています。現在境内にある8000体とも言われる石塔・石仏は、明治後半に付近に点在していた無縁仏を集めたもので、西院(さい)の河原と呼ばれています。

8000体と言うと確かにすごい数ですが、実際には意外と狭い範囲に集められています。まだまだこの付近に眠っているものもあるのでしょう。

あらゆる自然に宿る神々、日本人のこころ

そんな記憶をもつ土地もいまは門前町として、おだやかな風情ある街へと生まれ変わっています。鳥居本をさらに北の山側へ踏み入ったところにある清滝は、文豪・徳富蘆花(とくとみろか)が恋に破れた心を癒すために訪れた場所。置かれた石碑には“人は自然ととけ合い 自然の懐に抱かれて 限りある人生を憐れみ 限りなき永遠を慕ふ”という文豪の言葉が記されています。

かつて死をもって人が自然ととけ合った場所で、徳富蘆花は生のはかなさと永遠への憧れを想ったのでしょうか。清滝川の澄んだ水の流れに耳を傾けていると、八百万(やおよろず)の神を信じ、森羅万象に神を感じてきた日本人のこころが蘇ってくるようです。

嵐山市街から鳥居本までは少し距離がありますが、混雑する嵐山の観光地としては穴場。時間をとって街並みや自然の静けさを感じるのもおすすめです。歩き疲れたら「鳥居本 遊山」で昼食がてら休憩されるのはいかがでしょう。寒さ厳しい冬の嵐山、温かい空間とお料理でおくつろぎいただければと思います。

<本文監修>

観光ガイド「京都旅屋」代表   吉村晋弥   プロフィール>